柏市・流山市は東京都心への通勤者が多い郊外ベッドタウンとして、また柏駅周辺の百貨店などを中核とした千葉県北部、茨城県南部を代表とする商業集積地としても特徴を持っている地域である。しかし従前の地域は2車線道路を中心として質、量共に十分な状態ではなく、自動車利用の増加が交通状況の悪化に直結する環境にあった。
平成17年夏に“つくばエクスプレス”が開業したことにより、JR常磐線に過度に集中していた利用の緩和が図られるとともに、新線として利用の純増も期待され、既存線、新線の双方併せて鉄道総利用の増加が期待されたものである。
また、つくばエクスプレス沿線は従来低密度開発地域であったため、駅まではマイカーが利用されやすい環境にあった。これに対してはバス網の再編により期待したレベルまでの利用者転換が図れるのかが注目されていたものである。
つくばエクスプレスの開業は千載一遇の地域公共交通再編の機会であり、そのタイミングに合わせて様々な政策を短期間の間に実施することによって、住民に具体的なEST像を提案している点は高く評価できる。
モデル事業の成果を見ると、つくばエクスプレスの開業により多くの二酸化炭素排出削減を達成しているのに加えて、コミュニティバスの導入により、公共交通への転換をさらに促進していることが分かる。また、低公害車の導入やPTPSの導入についても二酸化炭素削減量の目標をほぼ達成しており、駐輪場の整備も合わせて総合的に公共交通への転換を促進していることが評価できる。
つまり、つくばエクスプレス開業は、同地域における総合交通対策の基幹的役割を担うものと考えられる。これに対してESTモデル事業は、つくばエクスプレスの開業による交通利用転換によるCO2削減の収穫期の初期にあたったものである。開業時から3ヵ年にわたり、大都市部郊外における車依存型の低密度住居地域において、交通利用転換を促すスタートダッシュ的な役割を担うことも期待されたと考えられる。
但し、ESTモデル事業の第1期にあたる地域であるため、次の視点で再整理を図ると、いくつかの点で今後の事業のあり方の改善ヒントも得られている。
○移動距離別での検証
・東京などに向かう中長距離移動の車からの転換
当初に期待された以上の鉄道利用増加があったことから、中長距離移動からの転換効果がある程度達成出来ていると見込まれる。
なお、このような効果に至った背景として、
・開業時から初乗り区間運賃や、終点までの運賃を低額で設定するなど戦略的な乗車運賃設定がされていた
・高架、地下化による高質な専用軌道により高速運転が可能で、当初から快速運行の導入などによる利便性の追及
という事前条件が十分に整っていたところに、
・駅周辺整備などの基本インフラの提供
が連動したことにあると考えられる。
・駅アクセス、地域内移動の車からの転換
年間バス利用者数は、つくばエクスプレス開業前の年間85.1万人の利用に対して開業後は平成18年91.9万人、平成19年91.5万人となっており開業前から比較していると増加している。
また駅に隣接する駐輪場の利用については定期契約台数ベースで、50.0千台あったものが平成18年度49.8千台、平成19年度47.2千台と微減傾向となっている。
駐輪場利用の微減傾向の点についてのモデル地域による分析では、自転車から徒歩へ転換する駅利用者が多く見られたとの指摘がある。
但し、鉄道利用の大幅増に比してバス利用の微減傾向、自転車駐輪の減少をトータルでみると、駅アクセスにおいてはマイカー利用が一定規模残っている、または駅までの利用では微増している可能性があるのではと推察される。
よって同地域では駅までのマイカーアクセスから自転車やバスでのアクセスに転換をさらに促すような、駐車など整備だけに依存しないレベルが高い対策が必要のようである。
この点で、収容台数に余裕を生じていると見られる駐輪場や、鉄道開業に併せて整備された道路、PTPSなどにより定時性を増していると見られるバスを活用するような対策などが考えられる。
○先行する補助や導入促進事業の面からの検証
PTPSの整備、CNG車の導入において、前者はつくばエクスプレス駅などと関係する区間での整備という点で、バスの速度向上などによるCO2削減に寄与している。しかし、バス利用者のさらなる増加まで期待した場合には、他策との連携、例えばよりバスが乗り易くなるような施策や、起伏のある地域に応じたバス停までのアクセスの改善なども必要であるようである。
CNG車の導入においては、導入を支援する既存制度があった上、低公害車導入計画などの後押しも加わり、当初の目標以上の導入が進んだといえる。
惜しむらくはCNG車の導入と、先行する交通利用の転換促進などの事業との連携が十分でないように見える点がある。
この点では、CNG車を新駅に係わる路線などで重点的に導入し、それをEST取組みの広報車両として積極的に活用するなどまで出来ていれば、単体としての削減効果に加えて、付加的な削減にも効果を発揮していた可能性もある。単体車両の更新は、所与の費用を投下し導入されれば確実にCO2削減効果が見込めるものだからこそ、ESTの視点での付加的な効果を発揮するような相互策や戦略がさらに望まれる部分である。
なお、このような視点で各種の課題検証が可能となったのはESTモデル事業や総合交通戦略の観点から、鉄道、バス、自転車など対策における利用実績を経年的かつ横断的に把握、比較し評価するPDCAサイクルが導入されていたことが、本評価に大きく貢献している。
今後は、いかにこれらの施策を継続する仕組みを整えるかが課題となっている。特にコミュニティバスを市内の各地で運行しており、一定の効果がみられるものの、財政負担も大きくなっているように見受けられる。コミュニティバスの運行に際しては、トリガー方式の採用や運行見直し基準を事前に定めておくなど、住民の自発性を引き出す方式を組み合わせることによって継続的な運行を目指すことが必要になってくると思われる。その際には、制度面だけではなくモビリティ・マネジメントとの併用しながら、より効果を高めていくことが期待される。 |