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  交通エコロジー・モビリティ財団 交通環境対策部
第14回EST交通環境大賞の審査結果
   

【大賞 国土交通大臣賞】伊勢地域公共交通会議
「再エネ由来の電力を使った電気バスの運行や公共交通の利用促進」

(概要)
 三重県伊勢市は伊勢神宮やおかげ横丁等で有名な観光地として、国内外から多くの観光客が来訪する。鉄道での来訪客は主に路線バスで移動し、連節バスも導入されている。路線バスは生活利用にも多く利用されているが、それだけでカバーできない市内主要施設への移動を確保するため、伊勢市コミュニティバス「おかげバス」が運行している。また伊勢市は「低炭素なまちづくり」の実現に向けた施策推進や幅広い年齢層への認知を進めており、公共交通に関しては以下を実施することで、EST普及推進に取り組んできた。

【おかげバス環状線の運行】
放射状の鉄道・バス路線ではカバーしづらい横移動を補完する「おかげバス環状線」を2019年から運行
利用実態やニーズ等に合わせて運行ルート・ダイヤ改正や停留所増加を実施し、2020年より本格運行・コロナ禍の中でも着実に利用者数が増加
【再生可能エネルギー由来の電力を使用した電気バスの導入】
三重交通株式会社と連携し、2023年にコミュニティバス用の小型電気バス2台を導入
小型電気バスには「みえ応援ポケモン」をラッピングし、バスに乗りたい意識を醸成
小型電気バスには、三重県産の再生可能エネルギーである「三重美(うま)し国Greenでんき」を利用
【市民・交通事業者と協働した利用促進の取組み】
「地域の関係者が協働・連携しながら公共交通を支える」という伊勢市地域公共交通網形成計画の方針のもと、おかげバスと鉄道(近鉄・JR)・路線バスとの乗継割引制度等を実施
市内小学生を対象にバスポスターコンクールを毎年実施。受賞作品を車内掲示し、受賞した小学生の声で車内放送
若者の地域離れを問題視した伊勢市二十歳のつどい実行委員会と有志団体が主体となり、バス利用で沿線の飲食店等が割引になる「おかげバスええとこめぐり」を企画・実施

(授賞理由)
 おかげバスは実証運行を経て運行方法をブラッシュアップし、着実に利用者数を増加させて年間10万人超を達成している。ニーズ分析等を実施し、サービスを改善することで地域公共交通の利用促進につなげる好事例と評価できる。特に環状線は、郊外に商業施設・総合病院等が分散立地していても中心駅で乗換不要でアクセスできる路線である。全国各地で環状方向のバスは試行されてきたが好事例が少なく、コロナ禍でも利用増が続いたこの路線は特筆すべき成功事例である。
 この利用者数増加の背景には、地域の関係主体や市民との協力・連携も重要な要素となっている。例えば、鉄道との乗継割引を実現したほか、成人を迎える若者が主体となって、地域公共交通を積極的に利用するような促進策を実施している点も独創的である。
 さらに一連の取組みのなかで再生可能エネルギーを活用した電気バス導入を継続的に進めており、ポケモンラッピングにより話題性を高めるなど啓発効果も大きい。
 長い期間にわたる地道な工夫の積み重ねを地域公共交通の維持・活性化の着実な成果に結び付けて、脱炭素化に寄与していることを評価して、大賞を授与することとした。



【大賞 環境大臣賞】一般社団法人陸前高田グリーンスローモビリティ、陸前高田市
「グリーンスローモビリティ(グリスロ)で実現する脱炭素と地域課題解決」

(概要)
 岩手県陸前高田市は東日本大震災以降、「ノーマライゼーションという言葉のいらないまちづくり(世界に誇れる美しい共生社会のまちづくり)」を基本理念に掲げ、誰一人取り残さない地域づくりを目指している。一方、復興を進める過程で、災害公営住宅における入居者の高齢化・孤立化や、整備された観光拠点施設から中心市街地への観光客の回遊不足という新たな課題が顕在化していった。これらの課題解決と共生社会・脱炭素への貢献を目的として受賞団体が連携し以下を実施することで、EST普及推進に取り組んでいる。

【高齢者の外出支援・観光客の回遊促進に着眼したグリーンスローモビリティの運行】
平日は災害公営住宅と買い物施設を結ぶルートで「地域の足」としての移動手段を提供
休日は観光客の回遊促進のために、道の駅田松原から周辺の商業施設を周遊するルートにおいて地域ドライバーのガイド付きで「観光客の足」としての移動手段を提供
【地域電力会社を中心とした持続可能なグリーンスローモビリティの運行体制の構築】
運行体制は一般社団法人陸前高田グリーンスローモビリティを自家用有償旅客運送事業者として、事業の企画運営を地域電力会社が支援
持続可能な運営をするため、グリーンスローモビリティの運行経費の一部を地域電力会社の収益で補填し、運行を維持する仕組みを構築
【再生可能エネルギーによる運行を目指したビジョンの共有や設備投資】
現在のグリーンスローモビリティの運行電力の一部は、カーポート型太陽光発電システムで供給
更なる地産地消の運行電力を推進する協議会を設置し、陸前高田市や地域電力会社を中心に農業者等と連携し、営農型太陽光発電設備を整備・普及促進する取組みを実施

(授賞理由)
 東日本大震災からの復興の過程で生じた高齢者の孤立や観光客の回遊不足という課題に対し、その解決ツールのひとつとしてグリーンスローモビリティを活用している点が評価できる。グリーンスローモビリティの地域ドライバーが高齢者の外出支援や、観光客への店舗紹介、地域プロモーションを担っており、社会面・経済面の地域の持続可能性に貢献している。運行の実証を通じてグリーンスローモビリティの社会受容性や利用者ニーズを確認し、他の公共交通機関との役割の違いも考慮しながら利用しやすい運行サービスを提供している。
 また、地域電力会社が主体的に参加し、地域電力会社の収益の一部をグリーンスローモビリティの運行経費に還元するという運営を図り、持続的な運行に対応している点が独創的である。
 本事業では再生可能エネルギー100%による運行を目指し、その実現に向けて地域電力会社が主体となって設備投資を積極的に実施しており、本事業が目指す電力の地産地消とその収益の地域への還元は、地域循環共生圏(ローカルSDGs)の考え方に沿うものと言える。今後の事業発展が災害復興・脱炭素化・共生等の課題に取り組む他地域にとって優良モデルとなると評価し、大賞を授与することとした。



【優秀賞】第一交通産業株式会社
「全国タクシーEV化プロジェクト」

(概要)
 世界的に脱炭素化の機運が高まる中、日本のタクシー業界では、車両台数の99.9%が化石燃料車であり、脱炭素化に向けた取組みが遅れている。タクシー事業用のEV車両は販売されておらず、特に地方の中小のタクシー事業者では、大規模な設備投資が困難であり、航続距離への不安等も相まって、製造終了した旧型車両での運行を続けている事例や、中古のハイブリッド車を導入している事例が多く見られる。また、全国的に化石燃料車に燃料供給するLPガススタンドが減少し、LPG車両での運行継続に懸念もある。
 第一交通産業グループでは、全国のNo1タクシーネットワーク加盟タクシー台数約4万台によるスケールメリットを活かし、タクシー車両のEV化に向けて以下を実施することで、EST普及推進に取り組んでいる。

【流し・待機営業、観光等の地域特性に応じたEVによるタクシー事業のモデルケース検証】
2021年度にプロジェクトを開始し、2024年3月31日現在222台のEVタクシーを導入
まずは需要の多い都市部での実証実験を通じて、日常の業務での航続距離や充電方式(普通・急速)、充電回数等を検証し、安定して運行できる条件を検証
小規模なタクシー営業所において、電力系統を大きく変更せずにEVタクシーを運用するモデルケースとして、北九州市内の営業所を「次世代タクシー営業所」に改良中
【商社やタクシー業界の若手、自治体と連携したEV普及促進】
配車システムで協働する企業等と連携してエネルギーマネジメントシステムを開発中
DX等に関心の高い若手から成る事業者の青年会と連携し、EVタクシーを普及推進
自治体にEV車両導入に係る協調補助制度の整備を働きかけ、加盟事業者に情報展開
【EVタクシーの普及促進につながる商品等の開発】
EVメーカーと連携し、乗合タクシー事業に活用できるような車両開発等を推進
自治体・交通事業者・商社・旅行会社と連携し、EVタクシー利用の観光周遊商品開発

(授賞理由)
 タクシー業界のEV普及を推進するため、自社でEVタクシーを積極的に導入し、EVタクシー運用について様々な実証や普及促進を図っている点に適時性・話題性がある。全国での加盟ネットワークを活かして、EVタクシーの導入によって得られた走行データや充電データ等をもとに、航続距離や1日の営業で必要となる充電回数、充電時間等を検証し、多様な地域特性(都市規模・台数・営業スタイルや、住民・観光需要)に応じて導入しやすいモデルケースを構築している。
 LPガススタンド減少による燃料補給時間増加に対し営業所でEVを充電することによる労働時間削減や、環境意識の高い若年層や女性によるドライバー不足解消等、タクシー業界の抱える課題解決にも貢献している。タクシー業界全体の脱炭素化を推進するだけではなく、特に地方部の交通課題解決に寄与している点を評価して、優秀賞を授与することとした。


【奨励賞】山口大学都市・社会システム工学研究室、宇部市公共交通協議会、山口市
「公共交通すごろくYAMAGUCHI」

(概要)
 地方部ではクルマに過度に依存した生活からの脱却にあたり、観光地への公共交通アクセスに関する情報が少ない、公共交通を利用するきっかけがないという課題を抱えている。それに対し、公共交通への関心を高め、利用促進を図るために、公共交通を利用した移動の創出や目的地の情報提供を実施した。具体的には、大学の研究室が主体となり、山口県内で公共交通の利用機会を創出する以下の内容のイベントを3年間で計6回開催することで、EST普及推進に取り組んでいる。

有名なゲームのアイデアから着想を得て、「実際の公共交通機関に乗車してすごろくゲームをしゴールとなる駅を目指す」イベントを開催
「待ち時間が長い・本数が少ない・駅周辺に何もない」という地方の公共交通のマイナス要素を、逆転の発想で高いゲーム性へ転換させる方策として、下車した駅周辺を散策して撮影した写真にもポイントを付与するフォトコンテストを併催し、「公共交通と徒歩で訪れることができる魅力ある風景や目的地」を発見する仕掛けを設定
地元店舗や鉄道路線の利用促進協議会と連携し、参加者に特典やノベルティを提供

(授賞理由)
 本取組みは、実際の公共交通機関を利用してすごろくゲームをするという取組みであり、新規性・独創性がある。地方部の公共交通機関の弱みを逆に活かして、地域の魅力を発掘し、さらに魅力発掘に対してインセンティブを追加している点が特徴的である。また、クルマでしか移動しない人をターゲットにして、公共交通機関を利用する目的や公共交通機関を利用するメリットを明確に打ち出している。
 現状はイベントの規模が小さく、参加者数が少ないが、宇部市や山口県とも連携して取組みを進めており、今後、取組みの更なる発展が期待できる。地方部におけるクルマ依存からの改善の一助になる取組みであることを評価し、更なる発展を期待して、奨励賞を授与することとした。

     
     
 
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