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  交通エコロジー・モビリティ財団 交通環境対策部
第11回 EST交通環境大賞の審査結果
   

【大賞 国土交通大臣賞】株式会社伊予鉄グループ
「IYOTETSUチャレンジ『サステナブルなECO社会の構築を目指して!地方からの挑戦』」

(概要)
 株式会社伊予鉄グループは愛媛県松山市を中心に事業を展開する交通事業者である。伊予鉄グループの鉄道・軌道・乗合バスの合計の輸送人員は、2000年度には過去のピーク年の28%までに大幅に減少していた。
 地方の交通事業者としての経営環境も厳しさを増す中で、地方の公共交通ネットワークを維持するために、公共交通を核とした取組を2009年から推進している。取組の一環として、2015年には、「IYOTETSUチャレンジプロジェクト」を始動し、優先的に取り組む課題として、地域や行政、企業と連携して以下の取組を推進している。

【見て、知って、乗ってもらうことによる公共交通利用促進】
鉄道、軌道、バスのロゴマークの一新、車両をオレンジカラーに統一
県下の新1年生への土日祝運賃無料パスポート配布(家族とまちに出るきっかけ作り)
小・中学校での電車・バスの乗り方と公共交通マナー教室による切れ目のない啓発
【環境負荷の低減による地域経済の活性化】
バスでの貨客混載開始(高速バス活用の物流効率化計画を全国初認定)
低公害車両(CNGバス、LRV)、ノンステップバスの導入
【伊予鉄グループの地球温暖化対策】
バス運転練習所跡地での再生可能エネルギー発電と山林の管理、保全活動
グループ各社のエコ通勤促進とエコ通勤優良事業所の認証取得

 これらの取組の結果として、2018年度の輸送人員は2000年度に比べ3,794千人(15.9%)増加し、公共交通利用が浸透してきている。貨客混載や低公害車両の導入、再生可能エネルギーでの発電によるCO2排出量の削減効果がみられる。

(授賞理由)
 愛媛県を代表する交通事業者として、地域公共交通に関する取組を先進的に実施してきた。2005年から松山市オムニバスタウン計画に沿って松山市と連携して実施した取組が、2015年からの本取組の基盤となっており、長期間にわたる活動の成果に結びついている。
 単発的な交通政策にとどまらず、公共交通を核とした交流人口増や地球温暖化対策、まちづくりによる地域貢献に取り組んだ結果、公共交通の利用者増だけではなく、まちの回遊性向上や、将来を担う子どもたちへの啓発にもつながっていることが評価できる。
 地方の鉄道やバスを取り巻く環境が厳しさを増す中、様々な取組を多様な主体と連携しながら進めていること、また同時に、再生可能エネルギー導入も着実に進めてきていることが他の交通事業者の参考になることから、大賞を授賞することとした。



【大賞 環境大臣賞】東急電鉄株式会社、株式会社東急パワーサプライ
「世田谷線CO2排出ゼロへの取組」

(概要)
 東急電鉄では、駅照明器具のLED化や新型券売機等の省エネルギー機器、省エネルギー新型車両を導入するなど、1960年代から環境負荷の小さい車両の導入や駅施設の省エネルギー化を行い、鉄軌道事業の電力使用原単位改善とCO2排出量削減に取り組んでいる。一方で、安全・安定した輸送のために列車本数や鉄道施設は増加しており、省エネルギー化の効果を上回る使用電力量の増加となっていた。そこで、CO2が排出されない再生可能エネルギーで発電された電力を調達し、鉄道事業を発展させながらCO2排出量削減に取り組んだ。
 東急世田谷線は東京都内を運行する軌道である。2018年度実績で年間2,166MWhの電力が使用され、それに伴うCO2排出量は約1,269tと推計される。そこで、株式会社東急パワーサプライが取次事業者となり、東北電力株式会社から再生可能エネルギー100%で発電した電力の供給を受けたことで、都市型鉄軌道として初めて、2019年3月末からCO2排出量ゼロでの運行を実現した。再生可能エネルギー100%の電力を供給し続けることを担保するために、経済産業省の「電力の小売営業に関する指針」に基づく契約を結び、1時間ごとに需給量を確認している。また、安定供給に配慮し、地熱と水力発電に絞っている。
 また、世田谷線沿線の商店街・商業施設や区と連携した以下のイベントを通じて、公共交通利用促進によるCO2排出量削減とともに、再生可能エネルギーへの理解を促進した。
沿線商店街連合会と連携したスタンプラリー、フェスによる住民の外出機会の拡大
電車等を利用して沿線の商業施設を利用するクールシェアによる電力使用量の削減
世田谷区の「せたがや版RE100」キックオフミーティングでの取組紹介と議論促進

(授賞理由)
 大手私鉄の1つとして、再生可能エネルギー100%での運行を実現した社会的インパクトは大きい。各種報道のほか、他団体との連携イベントにより、電車という生活者に身近なインフラを通じて、再生可能エネルギーの理解と普及促進に努めたことも評価できる。
 東急グループは1960年代から長期にわたってエネルギー使用量の削減を継続している。さらに長期経営構想において、グループ全体が事業で使用する電力を2050年には再生可能エネルギー100%で調達する目標を掲げており、本取組はその先駆けの役割を担っている。
 国の指針に則り、地方の資源を活用して、需要の多い都市型鉄軌道事業で再生可能エネルギー100%を実現したことは、公共交通においてRE100を担保する仕組みづくりを推進したモデルケースといえるため、大賞を授賞することとした。



【優秀賞】新潟市、新潟交通株式会社
「新バスシステム導入を契機とした持続可能な交通システムへの展開」

(概要)
 新潟市では、2007年の政令市移行を機に、交通政策の基本理念と行動計画を取りまとめた「にいがた交通戦略プラン」を2008年に策定し、人と環境にやさしい交通を目指して以下の交通施策を展開してきた。

【都心部基幹路線(BRT)を軸とする新バスシステムへの再編】
 バス路線網を将来にわたって持続させるために、周辺部からの多数の系統が都心部で同じ道路に集中する非効率な運行形態を抜本的に見直し、都心部にBRTと称する基幹路線を設定して系統を集約するとともに、いくつかの拠点で基幹路線と接続する支線バスを運行する「新バスシステム」への再編を2015年に実施した。基幹路線はバス利用に慣れていない利用者にもわかりやすい上に、都心部での運行本数適正化によって費用効率性が向上し、連節バス導入も行って団子運転を減らし定時性も改善された。併せて郊外では、コミュニティバスの充実に向けた投資や施策展開を進め、市域全体でのバス交通の充実が図られた。

【モビリティ・マネジメント(MM)と外出促進】
 2010年度に交通事業者や国、県等と立ち上げた「新潟市MM推進協議会」を通じてMMにも注力し、ノーマイカーデーの実施や、公共交通の未利用者に対して分かりやすく利用方法をまとめた冊子「トリセツ」の作成等を実施した。2016年からは、65歳以上の高齢者の外出促進を目的に、バス運賃を半額とする「シニア半わり」を本格開始した。
 これらの取組の結果として、市内路線バスの年間利用者数は、新バスシステム導入から4年目には、開業前に比べ108万人(5.4%)増加した。新潟市内都市交通特性調査によるバスの分担率等を考慮して推計すると、新バスシステム導入により、導入から4年間で66万tのCO2排出量削減につながっている。

(授賞理由)
 都心部の基幹路線への系統集約によって、わかりやすさ、定時性や費用効率性を向上させるとともに、新バスシステムによる全市的なバス交通ネットワーク整備等に果敢に取り組み、バスの利用者数増加やマイカーからの転換等の効果を上げている点が評価できる。
 取組に対して地元では賛否両論が挙がっているが、利用・運行状況等のデータを開示するとともに、アンケートやシンポジウム等で市民の意見を積極的に取り入れる機会を設け、導入後に明らかとなった問題点について見直しを適宜行っている点は評価できる。
 今後、新潟駅周辺の鉄道連続立体交差事業の完成に伴ってバスの南北通り抜けが可能となり、路線網のさらなる再編が見込まれるとともに、高架下交通広場の供用によって鉄道との乗継も改善され、公共交通全体のさらなる連携も見込まれる。大都市においてバス交通再編を大胆に行った事例であり、利用促進と環境負荷削減の成果をあげつつあることを評価し、優秀賞を授賞することとした。


【奨励賞】人・地域・地球にやさしいアクセスのためのファジアーノプロジェクト実行委員会
「ファジウォーカープロジェクト」

(概要)
 本プロジェクトは、Jリーグ・ファジアーノ岡山の試合を観戦する人のスタジアムまでのアクセスを、自動車から公共交通・自転車等に転換してもらうことで、渋滞緩和や環境負荷の低減、地元経済の活性化、健康増進等を目指すものである。
 2016年に立ち上げた本委員会は、事前調査を経て2017年よりMM施策を毎年展開している。構成は岡山大学、国土交通省(岡山国道事務所)、ファジアーノ岡山、鉄道・バス事業者、まちづくり団体、デザイン会社等である。ターゲットを全観客、自動車来場する観客、一般市民も含む不特定多数に分類し、個人の興味・関心に着目して、気づき・道徳・楽しさ・誇りの視点から委員会にてMM手法を熟議した。そして行動プラン法によるワンショットTFP、試合時刻に合わせたラッピングバス運行、特製バスマップ作成・配布等を行った。
 これらの様々な取組の結果、自動車利用者の他手段への転換率は約1割(転換経験者は約2割)、岡山駅からスタジアムまでの歩道(ファジロード)の歩行者も増加傾向にある。岡山市民を対象としたWeb調査ではプロジェクト認知率は35%と高く、岡山市全体を巻き込んだプロジェクトに成長している。

(授賞理由)
 MMの手法を実践的に用い、自動車から公共交通や自転車等への転換を促進している。また、転換を実践したサポーターを「ファジウォーカー」と称してブランディングし、そのロゴマークとチームカラーを配したバスマップや、駅舎・鉄道・バス・路面電車内での啓発広告等のMMツールを展開している。サッカー1チームの取組であるが、年間の試合数を考えると環境負荷削減効果は小さくなく、全国のイベントでの渋滞対策にも参考となることを評価し、奨励賞を授賞することとした。


【奨励賞】SAKURA MACHI DATA Project
「熊本県内バス電車無料化社会実験と検証」

(概要)
 熊本市中心部における再開発事業によって整備された、熊本桜町バスターミナルやホール等を備えた商業施設「SAKURA MACHI Kumamoto」の開業に合わせて、「公共交通機関の利用促進」、「渋滞緩和」、「中心市街地の活性化」を主な目的として、2019年9月14日に「熊本県内バス電車無料の日」を実施した。
 本取組では、空港リムジンバス、県外乗り入れ便、JR等を除く、県内の大半のバス、市電・電車を終日無料とした。多数の公共交通機関が連携し、無料化の対象は始発便から最終便までの4,694便(うちバス4,099便)に及び、国内でも例のない規模となった。
 本取組による様々な効果について、ビックデータ等を活用した検証を行うため、産学官連携のプロジェクト「SAKURA MACHI DATA Project」が発足した。関係機関からの提供データや当日の住民へのヒアリング結果を基にしながら、ヤフー株式会社が提供するサービス「データソリューション」を活用して分析を行った。
 取組の効果として、県内全域における公共交通利用および移動量の増加、マイカー利用者の公共交通機関への転換による渋滞長削減とそれによるCO2排出量軽減、公共交通利用に対する“きっかけ作り”、中心市街地の賑わい創出と回遊性向上を、定量的に確認できた。

(授賞理由)
 産官学連携のもと、ビッグデータ等を活用して取組効果のモニタリングを行い、公共交通無料という優遇措置付与による環境負荷削減や中心市街地活性化等の効果を示した。1日だけのイベントではあったが、そのインパクトは大きかった上に、定量的な効果計測が行われ、その結果が広く公表されたことで、公共交通の潜在的な可能性や存在意義が広く認識されることにつながった。この結果、今後の公共交通活性化とそれに伴う環境負荷削減を後押しするきっかけとなったことを評価し、奨励賞を授賞することとした。

     
     
 
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