EST(Environmentally Sustainable Transport)は今や世界の交通政策に共通する主要課題となっています。持続可能性は環境面だけでなく、経済面、社会面の三つの側面から対応すべき課題であると一般に認識されています。交通の場合は、経済的な持続可能性は安全で便利で快適な交通サービスが最も効率的にかつ安定的に提供されること、そして社会的な持続可能性は公平性の視点から社会参加に必要な一定水準の交通サービスがどこに住んでいようともすべての人々に、特に貧しい人、高齢者・障害者・子供たちにも確保されていること、を意味しています。
環境的な持続可能性は、この経済、社会の側面に加えて、環境面からの要件を強調した概念であり、当然なことながら交通政策はこれらの三つの側面のトレードオフの面を踏まえて、適切なバランスの下に進めていく必要があります。ここで重要なことは、交通が私たちの生活、社会経済活動を支える不可欠なものであること、そして同時にそのような人間活動(ヒューマン・アクティビティ)の仕方が必要とする交通のありようを規定していることです。このように交通と社会との関係を考えるとESTをはじめ持続可能性は、交通政策の目標というよりは制約条件として認識すべきであり、持続可能性の要件を満たした上で、どのような社会を実現したいのか自分たちの生活、社会経済の目標が問われている政策課題と言えます。ESTを推進する上で、交通と特に関連する政策分野としては、都市づくり、環境、健康・福祉があり、これらの政策と連携して進める統合的交通政策が重要です。
ところでESTに向けた交通政策の焦点は自動車交通による環境負荷の削減です。単体対策による省資源・省エネルギー、排出削減が基本ですが、自動車・燃料技術の進歩にもかかわらず交通需要増加の下ではESTの達成は困難とされています。特に予防原則の下に大規模かつ長期的全地球的対応の必要性が指摘されている地球温暖化問題を考えると、ライフスタイル、ビジネススタイルなど人間活動と社会経済の仕組みそのものについての見直しが求められているのが現状です。
このようにESTへの取り組みは、幅広く継続的に他分野と連携して、市民・国民、企業、自治体・政府など社会全体で協働して取り組むべき課題です。困難ではあっても、日本が先導すべき人類共通の課題への挑戦でもあります。
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